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Character/Voice

  • 凪野真琴
    和氣あず未

    CV.和氣あず未

    プロフィール

  • 水田英里紗
    Machico

    CV.Machico

    プロフィール

  • 二階涼未
    青木瑠璃子

    CV.青木瑠璃子

    プロフィール

ShortShort

  • アニメとススメ!ShortShort

    • 1.ゼロカロリー理論

      「おい、ミズエリよ、ちょっと聞いてほしいんだけど」
      「えー? いやだよ」
       ミズエリこと水田英里紗は、深刻な表情を浮かべる友人のお願いをあっさりと断った。
       放課後に寄り道したファミレスのボックス席。
       窓際の席は西陽がまぶしい。
      「いや、友達が深刻そうなテンションで切り出してるんだよ?」
      「絶対に深刻じゃないやつだし」
      「まあまあ、ウソだと思って聞いてよ」
      「ウソって言っちゃってるじゃん」
       英里紗はアイスティーのストローに口をつけて、仕方なく先をうながした。
      「あたし……」
       すると真琴はたっぷりと溜めをつくり、絶望的な声で言った。
      「……太ったと思う?」
      「思う」
      「即答! やめろやめろー! 友情があるなら大きな愛でフォローして」
      「ウソついてもしょうがないし」
       ずずず、とアイスティーを飲む。
      「部活出てないんだから、運動してたときと同じように食べてたらそれは太るよ」
       凪野真琴は女子ハンドボール部(弱小)の秘密兵器と恐れられる女だ。ただ、よく故障するのでいまでは帰宅部と兼部しているみたいになっている。チームが弱いからなにも言われないし、このままだと秘密のままになってしまいそうだ。
      「あたしが求めてるのは、正論じゃない」
       真琴の前にはふわふわパンケーキが鎮座している。
       太ることを気にしているやつが頼むものではない。
      「正論なんて世界の半分を怒らせる暴論だよ」
      「それっぽいことを言うな」
       英里紗は手元に置いてあったスマートフォンを手に取ると、dアニメストアのアプリを立ち上げた。
      「なになに?」
      「私がdアニメのマイリストでつくった、すごい作画がいい水着回でも見せてやろうと思って。自分が今年の夏に水着になるところ想像しなよ。食べる気なくなるから」
      「ミズエリー、そういうことじゃないよ」
       心底がっかりした様子で、真琴はわざとらしく肩を落とした。
      「たとえばなんだけど」
       そう言ってパンケーキにフォークを突き刺す。
      「このパンケーキがゼロカロリーだとするじゃない?」
      「うん……うん? たとえの前提がちょっとわかんない」
      「ふわふわで軽いから、ゼロカロリーだとするじゃない?」
      「いや、そうはならんやろ」
      「ゼロカロリーだったら、食べても太らないじゃない?」
      「うわ、結局食べたよこいつ」
       もっふもっふとパンケーキを頬張り、真琴がフォークの先を突きつけてくる。
      「こういう罪悪感をなくす提案と、わたしが太ってないっていうフォローがほしいわけ」
      「知らんがな」
       英里紗はアイスティーを飲み干した。
      「そりゃあさー、ミズエリは太らない体質だからさー」
      「そんなわけないでしょ。私だって気をつかってるよ」
       パンケーキは頼んでないし、アイスティーはストレートだぞ。
       ふわふわでゼロカロリーなら私だってパンケーキ食べるわい、と英里紗は思った。
       そして、さっきから無言で三段重ねのパンケーキ(バニラアイスつき)をむしゃむしゃと食べているもう一人の友人に視線を向ける。
      「それを言ったら涼未のほうがそうじゃん」
      「え? わたし?」
       きょとんした表情で、二階涼未は小首を傾げた。
      「太らない体質って話。それか食べても太らないコツがあるんだったら、謎のゼロカロリー理論にすがってる、マコに教えてあげてよ」
      「うーん、さすがにふわふわで軽いからゼロカロリーには無理があると思うなあ」
       涼未は至極真面目な顔で言った。
      「わたし的には、ここのパンケーキは口当たりがよくて溶けちゃうから、ゼロカロリーだと思う」
      「ほらあ!」
      「ウソでしょ」
       真琴はガッツポーズして、英里紗は眉間の皺を深くした。
       結局――
       真琴は太ったし、涼未は痩せた。

    • 2.メガネっ娘について考える

      「エリちゃん――わたし、メガネっ娘について考えている」
      「まーた、わけのわからないこと言い出したよ」
       友人の二階涼未がやおら言った謎の言葉に、エリちゃん――水田英里紗は律儀に突っ込んだ。
       放課後の美術室。
       遠くから聞こえるのは、運動部が上げる練習の声、あるいは吹奏楽部がパート練習で響かせる楽器の音色。どこか別世界のようだな、と英里紗はいつも思う。
       彼女は三年生で美術部の部長だったが、同学年は自分だけだし、後輩の出席率もまちまちだ。たまに、部員ではない友人が訪ねてくることもある。それくらいの緩さの部だった。
      「ここ一週間考えているの。考えすぎて、ご飯も一日四食しか喉をとおらない」
      「一食多くとおってるじゃんかよ!」
      「悩みが深くて、朝、昼、夜、深夜しかとおらない」
      「とおりすぎている」
      「本当は三時におやつが食べたい」
       涼未はひどく真剣だったが、英里紗は心底から「知らんがな」という顔をした。
      「だから、わたしのおやつのために聞いてもらっていい?」
      「斬新な切り口の相談だな」
       英里紗はわざとらしくため息をつくと、それでも先をうながした。
       ツナギに着替えて、画を描く準備をするまでの暇つぶしにはなる。
      「メガネをかけている女の子が、メガネを外すと実は可愛いっていうパターンがあるじゃない?」
      「あー、うん、あるね。いや、そもそもメガネをかけている時点で可愛いんだから、周りも気づけしというね」
      「だからわたしは思ったの。真にメガネっ娘と呼べる者は、メガネをかけているときのほうが可愛い者だけなんだと。メガネをかけているときのほうが可愛い者だけが、メガネっ娘を名乗りなさいと」
      「偉人の言葉みたいなテンションじゃん」
      「エリちゃんはどう思う? わたしは、全メガネっ子はそう定義されるべきだと確信した」
      「もう確信しちゃってるし。悩みどこいった」
       ツナギに着替え終わり、英里紗は描きかけのキャンバスに目をやる。少し大きめのF10号。卒業制作にでもしようと思っている。
      「話は聞かせてもらったわ!」
       唐突に美術室のドアがぴしゃりと開いた。
      「あ、マコだ」
      「ナギちゃんだ」
       英里紗と涼未は口々にドアを開けた女――友人である凪野真琴の名前を言った。
       彼女は遠慮なくなかに入ってくると、二人の顔を順番に見た。
      「なんやかんやで困っていると見た」
      「なんやかんやってなんだよ。ドア開けたときのセリフはなんだったんだ」
      「一度言ってみたかっただけ。いまは反省してる」
      「絶対してないやつだ」
       英里紗は小さく笑うと、キャンバスを手にしてイーゼルに立てかける。
      「部活は? 練習に復帰してたじゃん」
      「ハンドボール部の部室が狭すぎて追い出されたから、ちょっとここで着替えさせて」
      「そんなことでうちを使わないでよ」
      「まあまあ、ミズエリよ。そのかわりに涼未を引き取ってあげるって」
      「え? いいの?」
      「ナギちゃんがわたしの救いだったのね」
       涼未は目をキラキラさせると、数分前と同じ言葉を真琴に言った。
      「わたし、メガネっ娘について考えているのだけれど」
       真琴は制服から練習用の体操服に着替えながら涼未の話を聞いていたが、
      「なるほど。実はあたしもまったく同じことを考えていたよ」
      「ナギちゃん!」
      「ウソでしょ」
       涼未は歓声をあげ、英里紗は困惑した。
      「そんな涼未にいいものを見せてあげよう。dアニメストアでメガネっ子だけを集めたマイリストをつくったの。あたしはそれを夜な夜な見ながら、メガネっ子について真剣に考えた」
      「ナギちゃん!」
      「ウソでしょ」
       涼未は歓声をあげ、英里紗は困惑した。
       結局――
       週末に三人で、メガネっ子が登場するアニメを延々と見た。

    • 3.藤原センパイ

      「あっついな」
       季節は初夏にはまだ早いというのに、照りつける太陽は朝から容赦なくギラギラしていた。最寄駅から学校への道を歩く水田英里紗はうんざりした気持ちになる。
      「紫外線は、JKの柔肌を、殺すためにあるのか……」
       突き抜けるように真っ青な空の下で登校する同じ制服を着た生徒たち。
       そのなかに見知った顔を見つけて、彼女は小走りに近づいた。
      「マコ、おはよー」
      「お、ミズエリ。おハロー、おハロー」
       こちらを振り返った凪野真琴は、太陽に負けない笑顔だった。
      「今日はポニテなんだね」
      「部活に復帰したからさ。練習のときいちいちまとめるの面倒だから、最初からポニテにしてみた。どうですか? あたしの可愛さを褒めてくれていいよ。スパチャしろ」
      「ウンウン。カワイイ、カワイイ」
      「急に壊れたロボットみたいな棒読みになるじゃん」
      「ソンナコトナイヨー」
       英里紗は尻尾みたいに揺れる真琴のポニーテールを、くいくいと引っ張った。
      「ちょっ……引っ張るな。首がもげる」
      「ポニテが目の前にあるとさ、引っ張らないといけないって家訓があるから」
      「それならしょうがない――ってならないから。そんなウソで騙されるか」
      「江戸時代から続く家訓だよ? 水田家には『ポニテを引っ張らることを家訓とし候』って文書が残っているわけ」
      「はいダウト。江戸時代なのにポニテって言っちゃってる」
      「……」
       英里紗は唇を尖らせて鳴らない口笛を吹いた。
      「目を逸らすな」
       真琴が抗議するようにして肩でぶつかってきて、二人はどちらともなく笑った。
      「復帰して練習どうなの?」
      「ダメだねー。全然シュート入らん。ブランクがすごい」
      「藤原センパイに見惚れてるからじゃないの?」
      「はー?」
       英里紗が口にした男子ハンドボール部の先輩の名前に、真琴は大袈裟に不満げな声をもらした。
      「違うから。そういうんじゃないから。藤原センパイはジャンプシュートのフォームがむちゃちくちゃキレイだから、それで参考にしてるだけだから。あたしはジャンプしたあと空中で前傾姿勢になっちゃうクセがあって、フォーム的にそれはダメだから、それで参考にしてるだけだから」
      「すごい早口でしゃべるじゃん」
      「……」
      「目を逸らすな」
      「いやー、今日あっついなー」
       両手をパタパタさせて自分の顔に風を送る真琴の顔を、英里紗はニヤニヤしながら半眼で覗き込んだ。
      「マコのポニテ可愛いなー。これは藤原センパイもイチコロかなー」
      「だからさー、そういうのじゃ……」
      「そうだよねえ。ナギちゃんのポニーテール可愛いもんねえ」
      「うわ、涼未、ぬるっと出てこないでよ」
       ぬるっと現れた二階涼未に、英里紗はそのままのことを言った。
      「人をそんな煮ても焼いても食べられない謎の魚みたいに言わないで。二人の後ろを気配を消して歩きながら、ナギちゃんに春がきた話を聞いてたの」
      「え? スニーキングミッションのスキルもってる?」
      「もってるよー。だから、藤原センパイがポニーテール好きだってことも知ってる」
       涼未は「どやー」と顔の横でダブルピースした。
      「ちょっと、もう、この話は終わり! 終了! あたしは先にいくから」
       こちらの言葉をまたず、真琴がスクールバッグを背負い直して駆け出していく。
       運動部らしい加速で遠くなる背中を見ながら、二人は口々に言った。
      「可愛いやつだ」
      「ナギちゃん、先輩とフラグ立つかなあ」
      「なんかラブコメでも見たい気分になる」
      「そうだねえ。激甘いラブコメがいいねえ――あ、それと」
       涼未がやおら真剣な声になったので、英里紗は怪訝な顔をした。
      「わたし、自分を魚に例えるならトラフザメがいいってずっと思ってる」
      「え?」
      「トラフザメ」
      「知らん知らん」
       英里紗は次の休みに、dアニメストアで胃もたれするくらいにラブコメを見た。
       真琴が勝ちヒロインになることを願うばかりだ。
       あと、気になって調べたトラフザメは、なんとなく間が抜けたところが涼未に似ていなくもない。

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