特集　Aimer×『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』

Aimer：最初にこの曲の布陣が近藤さん（近藤光、Ufotable。作詞）と椎名さん（椎名豪。作曲）と聞いたときから、「鬼滅の刃」の楽曲として完全にハマるような曲ができるんだろうな、と予想をしていました。楽曲をいただいたときは、曲自体が持っているエネルギーがすさまじいのと、いわゆるポップスの範疇に収まらないくらい多様な音楽性が詰まっている楽曲だと思ったので、自分がボーカリストとして表現できるのか、という思いも最初は少しありました。結果として、皆さんのお力とこの楽曲の力もあって、自分としても今までにない、今までよりも自由にボーカリストとして取り組めた手応えがあります。

Aimer：まさにそうで、この曲はどうレコーディングしようか悩んだ挙句、レコーディングブースで、もうその場のフィーリングだったり、想いだったり、出てくるものを収録するしかない、という気持ちになりました。今までの自分のレコーディングでは、すごく細かく歌の形や、どこでビブラートするか、とか、細かい表現をけっこう詰めていくタイプだったんですが、この楽曲に関しては本当に熱量がすごいので、ライブ感を持って歌わないと、頭で歌っていたら戦えないという気持ちが、最終的に出てきました。レコーディングの当日は近藤さんと椎名さんが来てくださったんですけど、途中から「アニメーションの絵があった方が歌いやすいんじゃないか」と提案をしてくださって、急遽モニターを持ってきてくださって、アニメーションを歌と同期させながら歌えたんです。それが自分の中ではライブっぽいというか、ライブはお客さんがいて、バンドメンバーがいて、その日しかないグルーブが出てくるものですけど、それに近い感じがしました。

Aimer：そうですね、今までだったら自分の感情に寄りすぎたような部分、感情に寄りすぎているからこそ生まれる表現、たとえば歌の形だったり、ちょっとしたヨレだったりを、作品とご一緒するときは控えよう、抑えようという気持ちがあったんですが、この曲に関しては、それを出していって、この曲自体が持っているポテンシャルとして懐が深い曲だったので、それに合わせて一緒のところに立つためには、それくらいのエモーショナル具合が合っているのかな、と思いました。

Aimer：そうですね、今はそういうモードにいるので、それはすごく後押しになりました。このタイミングでこういう曲をいただいて、自然と自分のちょっと荒々しい個性のようなものを、この曲だったら本当に自然に昇華できる感じがありました。

Aimer：そういう面に、本当にぴったりくるものがあったのかなって思います。

Aimer：自分が予想していたよりもっといろんなところに、遠くまで届いてくれたな、という気持ちがあります。自分の 10周年のタイミングだったこともあって、それまでになかったようなステージや機会で歌えることも多くて、そういう一連の経験をしたことは、これから5年 10年と歌っていきたいと思っている中で、自分がこれからどうありたいのか、キャリアを重ねる上での考え方自体にすごくいい影響を与えてくれたと感じています。楽曲制作自体も、自分の大切な人たちと作れたこともあって、そういう意味でもひとつの結実だったし、すごく大切な曲です。

Aimer：「残響散歌/朝が来る」の2曲とも、特に「残響散歌」はいろんなところで歌わせていただいて、新たな自分の代表曲になってくれた手応えがありましたし、「鬼滅の刃」という作品の上での自分の役割は果たせたのかな、という気持ちでいました。その後も、主題歌は自分がLiSAさんからバトンタッチしていただいたように、どんどんバトンタッチされていって、いち視聴者として作品を楽しんでいたので、まさか「無限城編」で主題歌を担当できるとは思っていなくてびっくりしました。だから、嬉しいと同時に光栄な気持ちも込み上げてきて。しかもLiSAさんとW主題歌だと聞いて、LiSAさんのこともずっとお慕いしているので――。

Aimer：LiSAさんには、お慕いしているといつもお伝えしています。だから、すごく嬉しかったです。LiSAさんが、澤野（弘之）さんの曲を歌われたことがありましたよね（「俺だけレベルアップな件」の主題歌“ReawakeR”）。そのときのLiSAさんのインタビューを読ませていただいたときに、「澤野さんと、それぞれの道で戦ってきた仲間のように考えている」とLiSAさんがおっしゃっていて。それを読んだときに、「わかる！」と思って、LiSAさんに「わたしもLiSAさんや澤野さんのことを同じように思ってます」とお伝えしたら、「わたしたち仲間だね！」とおっしゃっていただいて。

Aimer：同じ時期にデビューして、15年くらいお互いの道を進んできて、15年前はここまで続けられるとは考えていなかったし、想像もできなかったです。それはたぶんLiSAさんも同じで、とにかくいまできることを夢中でやってきたら15年が経とうとしている。そういうところで、別々の道だけどいつも励みになっている存在ではあるから、それをお互いに共感し合えたことが嬉しかったです。

Aimer：自分は今までもいろんなアニメーションに限らず、いろいろな作品の主題歌を担当させていただく中で、自分で歌詞を作って制作に大きく関わるときもそうですし、それと同じく梶浦（由記）さんだったり、澤野さんだったり、曲を作っていただいて歌う機会もたくさんあるので、作品の世界観をボーカルだけで表現すること、曲自体が求めている世界をいかにボーカルで再現するか、ちゃんと表現できるかの経験をいろいろな楽曲で積ませていただいてきました。だからこそ、今回のようにシンガーに徹するときに、託していただいた曲の世界観をよりボーカリストとして構築することを――自分で言うのも難しいんですけど――ちゃんと担えるように思いながら歌ってきたのは間違いないです。

Aimer：特に「残響散歌」は個人のキャリアの中でも、自分の10周年のタイミングで「遊郭編」が巡ってきて、作品の世界を表現するために、それまでになかったド派手な曲を作ることができて、自分の 10周年のお祭りをファンのみんなと分かち合うための曲にもなりました。最初の武道館で「ONE」という曲を作ったときに、みんなが立ってくれて、手を挙げているところをライブで見たいという思いがあったのですが、「残響散歌」もライブで一緒に同じ方向を見て楽しめる曲、一緒に歌ったり声を出したりできる曲になったという観点でも、自分のライブのあり方にとても影響を与えてくれました。そういういろんなピースが、自分のストーリーの中でも、「残響散歌」で消化できた手応えがあって。作品自体が持っているエネルギーやストーリーによってできた曲だから、すごく感謝しています。自分のもともとのスタイルはそういう方向ではなく、もっとしっとりしたライブをやっていたので、「残響散歌」がライブの新しい扉を開いてくれたと思っています。

Aimer：わたしは同期の3人組、炭治郎と善逸と伊之助がやっぱり好きですね。「遊郭編」でもそれぞれがいいピースになって戦いに挑んでいたし、3人を見ているとすごくほっこりします。それぞれに個性的でタイプも違うけど、戦いの中でちゃんとチームプレイで協力し合いながら相手を倒していくのは見ていて嬉しいし、応援したくなります。

Aimer：やっぱり思い入れが深いのは「遊郭編」なんですけど、妓夫太郎ですね。妓夫太郎は、常に人を羨んでいますけど、そういう気持ちが自分の中にもあります。彼が「お前いいなあ」「妬ましいなあ」と言う姿は、面白おかしく見えることもあるけど、最後に堕姫と一緒に絆を確かめながら暗い方に歩いていく場面は、アニメでも原作でもめちゃくちゃ泣いてしまいました。鬼になって、いろんな人を手にかけてしまって、道を踏み外してしまったので、暗い方に歩いていかないといけないことはもちろんわかるけれど、生い立ちや彼らがそうなった経緯を知るにつれ、誰でも持っている誰かを羨んでしまう気持ちは、わたしも根本にもあるので、「わかるなあ」って思いながら観ていました。

Aimer：そこが面白いですよね。鬼殺隊と鬼の価値観や想いが全然真逆というか、完全に相反してることが浮き彫りになるほど、自分が不完全なものを持っていると常日頃感じている身からすると、鬼殺隊のように正しく、人としてまっとうに生きている彼らのことはもちろん素晴らしいと思うけど、同時に鬼たちのどうしてもままならない気持ちを抱えて沈んでいってしまった部分に、ときどきすごく共感します。鬼殺隊のみんながまぶしすぎて、自分だったら同じシチュエーションで彼らと同じようにできるのかなって、身につまされる時もあります。

Aimer：そうですね。ふたりが過去を回想して、最後に堕姫が「何回生まれ変わってもアタシはお兄ちゃんの妹になる」と言って、ふたりで暗いほうに歩いていくところは、まさに炭治郎がその前に、「お互いを罵り合っては駄目だ」ってふたりに声をかけたのも含めて、すごく心に残るエピソードでした。「残響散歌」も鬼殺隊側の気持ちを描いているけど、実は同じくらい、鬼のふたりの心情も酌みたいと思いながら作った曲だったから、特に印象に残っています。それと煉獄さんのシーンで、伊之助が「悔しくても泣くんじゃねえ」って言うシーンも、本当に感動しました。「どんなに惨めでも恥ずかしくても生きてかなきゃならねえんだ」というセリフは、真理を突かれたような気がします。そういうセリフが、たくさん出てくる作品だと思います。

Aimer：敵と味方のそれぞれの信念や、死生観というんでしょうか、何のためにこんなにまでして戦うのかがより浮き彫りになっていくのを読むと、それと照らし合わせて、自分自身がハッとさせられます。自分自身の弱さや、何のために生きて死んでいくのか、みたいな、日常生活の中であまり考えない部分を、彼らの戦いを読むことで考えさせられる、自分の価値観に改めて触れることができるのが、面白いなって思います。

Aimer：「太陽が昇らない世界」という楽曲が、「無限城編」第一章 猗窩座再来のひとつのピースとして、ちゃんとその役目を果たせていたらいいなと思いますし、作品を劇場で観ていただく際に、この曲が皆さんの感情を昂ぶらせてくれるものであったらいいな、と思います。劇場版をきっかけに、今までの作品を見返したり、原作を読んだりする方もいらっしゃると思いますが、「太陽が昇らない世界」や「残響散歌」といったわたしの曲が、作品に触れる際のお供になったら、とても嬉しいです。ぜひ楽しんでください。